スキマバイト業界に激震が走った。メルカリが2025年12月、スキマバイト仲介サービス「メルカリ ハロ」から撤退する――そう発表したのだ。
開始からわずか1年9カ月、スピード撤退の背景には、表面上の数字だけでは見えない構造的な問題が隠れている。
メルカリは参入直後、知名度の高さを活かして急速に登録ワーカーを集めた。
今年6月には1200万人を突破し、当時のタイミー（1190万人）を一時的に上回る規模を誇った。
にもかかわらず、収益は伸びず、市場シェアは10％に満たなかったとされる。
一方、タイミーは推定シェア50〜60％で独走。
なぜ同じ“スキマバイト”でも、ここまで明暗が分かれたのか。
鍵となったのは「有料化」のタイミングである。
メルカリは2025年4月、サービス利用料を給与＋交通費の合計の30％に設定し、有料化へ踏み切った。
それまで無料だった事業者が一斉に離脱し、求人数が急減した。
奇しくもこの「30％」という数字はタイミーと同じ水準。
しかし結果はまったく異なった。
なぜ同じ手数料率でメルカリだけが失速したのか？
それは依存度の差だ。
PayPayの例がわかりやすい。
PayPayは当初3年間無料で加盟店を拡大し、キャッシュレスの利便性を社会に浸透させた。
2021年に有料化しても、店舗は離れなかった。
すでに“PayPayなしでは商売が成り立たない”状態になっていたからだ。
一方、メルカリ ハロは無料期間が短すぎた。
事業者が「もうこのサービスがないと困る」と感じる前に有料化してしまった。
これでは顧客のロイヤルティを育てきれない。
投資を回収するための焦りが、結果的に撤退という形で跳ね返ったのだ。
タイミーはこの落とし穴を回避した。
2018年の創業当初、誰も注目していなかった「学生の隙間時間」と「飲食店の急な人手不足」を結ぶニッチ市場にフォーカス。
参入障壁の低い小さな領域で“成功体験”を積み重ねながら、顧客・ワーカーの双方を丁寧に育てていった。
物流業界との出会いがタイミーを変えた
コロナ禍が直撃した2020年前後、タイミーの主力だった飲食業界は大打撃を受けた。
しかし、そこで見つけたのが物流業界という新市場だった。
物流は繁忙期と閑散期の波が激しく、人手調整が難しい業界だ。
スキマバイトという柔軟な仕組みは、その課題を一気に解消した。
タイミーはここで一気に拡大し、1社の導入で大量の求人を獲得できる構造を築いた。
その後、飲食・販売・軽作業など多様な業種に展開。
さらに副業解禁の流れとリモートワークの浸透が追い風となり、スキマバイトは働き方改革の象徴へと進化した。
現在のタイミーでは登録者の約4割が社会人の副業層であり、月収1.6万〜7.5万円を稼ぐユーザーも多い。
もはや学生バイトの延長線ではなく、生活を支える副業インフラへと進化したのだ。
タイミーの強さを支える“二つの追い風”
まず第一に、日本全体で深刻化する人手不足がある。
少子高齢化による労働力減少で、企業は従来の低賃金・大量雇用モデルを維持できなくなりつつある。
一方で家計防衛のために副業を希望する人は増加しており、即日報酬が得られるタイミーは、労働者・企業双方にとっての最適解となりつつある。
第二に、デジタル技術の優位性だ。
タイミーはAIによる最適マッチングやアプリ完結型のUXを強みに、掲載から成約までの時間を圧倒的に短縮。
成約率80％超という水準は競合の追随を許さない。
デジタル広告とSNSを活用した顧客開拓力も突出しており、従来の求人営業とは別次元の効率を実現している。
これによりスキマバイト市場は単なる求人業界から、IT産業に近い高参入障壁のビジネスへと変貌を遂げた。
結果として、メルカリが撤退し、他の競合も掲載件数で大きく差をつけられているのが現状だ。
“タイミー一強”が示す日本の働き方の未来
メルカリの撤退は、単なるビジネス上の失敗ではない。
日本の雇用構造が大きく変わる中で、どのタイミングで無料をやめ、有料に転換するか、利用者の依存度をどこまで高められるかという、デジタルサービス共通の課題を浮き彫りにした。
スキマバイトは今や一時的なトレンドではない。
働き方が多様化し、企業が柔軟な人員確保を求める限り、この市場は中長期的に拡大を続けるだろう。
そして、その中心に立つのはタイミーだ。
PayPayが現金文化を変えたように、タイミーは働き方の常識を変えつつある。
スキマバイトが社会インフラとして根づくとき、そこには新しい雇用の形と、企業のサステナブルな経営モデルが誕生しているに違いない。
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