DX

働き方を変える愛媛県のDX

日本において加速の一途をたどる少子高齢化、それにともなう労働力不足が深刻な問題となっている。

「2045年には、65歳以上人口の割合は、首都圏で30%台であるのに対し、地方では40%を超えると予測されている」(総務省「令和4年 情報通信に関する現状報告の概要『 地方における少子高齢化』」)ように、少子高齢化の加速度は特に地方において顕著である。

このような現状を踏まえ、社会・経済活動を維持するため、持続可能かつ、感染症・災害などの非常時にも耐えうるレジリエントな社会を実現するには何が必要なのか。事例を交え解説する。

地方全体が抱える「働き方」の課題

特に地方で深刻視される人口減少・高齢化が招く危機の一つが、労働力不足である。若い働き手が減少すれば、地方の大多数を占める中小企業の人手不足を招き、それがじわじわと地域の企業活動の停滞につながることは否定できない。

後継者不足による地域企業の消滅が続けば、魅力的な働き場所・多様な働き方を求め都市部へと流出する若者が増加し、さらなる少子高齢化を招くことが予想される。こうした悪循環が、また労働力不足を加速させることになる。

このような労働力不足という課題に対し、地方企業ができる策の一つが「IT(アウトソーシング)の活用」である。例えば、発注代行やリサーチ、書類作成などの業務を、インターネット上でのアウトソーシングに頼ることで大幅なリソース確保が実現する。

例えば、愛媛県のとある工務店では、人手不足を補うため、オンラインアウトソーシングサービスを導入した。その結果、限られた人員がそれぞれコア業務に集中できる環境がつくり出せているとの声がでている。特に、補助金関連の専門知識を要する業務に対しても、社員に代わり業務を遂行できるので「オンラインアウトソーシング活用の価値を感じた」(担当者)という。

同工務店が所在する愛媛県では、物理的な距離の壁を破壊できるデジタル技術は、地方にこそ大きな可能性があると考えている。2022年、中村時広知事によって「あたらしい愛媛の未来を切り拓く DX実行プラン」が打ち出され、「先駆的なDX関連企業との連携・協働」が掲げられた。

官民共創デジタルプラットフォーム『エールラボ えひめ』
https://yell-lab.ehime.jp/

同県では既に多くのDX関連企業と包括連携協定を締結していて、 先駆的な民間企業やスタートアップ企業との協働により、愛媛オリジナルの産業・暮らし・行政のDXや、デジタル人材育成を推進しているのだ。

例えば主な連携企業として、コニカミノルタ、グーグル、楽天、LINEなどの大手企業などが挙げられる。ITを活用したアウトソーシングサービスもDX関連企業の1つであり、IT技術を活用できる企業内人材の育成という観点からも有用であろう。

さらに、ITを活用したアウトソーシングの意義は、単なる「課題の穴埋め」にとどまらない。全国各地・世界各国の優秀な人材に業務依頼ができるという点にも注目だ。特にパワーポイント作成やデザインなど専門性の高い業務に関しては、それを得意とする全国(世界中)の人材に依頼することで、時間が削減できるだけでなく、クオリティーの面でもよりよい成果が期待できるだろう。

働き方の多様性をオンラインで実現

人手不足が深刻化する地方企業は、「テレワークの導入」を考えたほうがいい。テレワークという働き方を選べること自体が、雇用の創出につながる可能性があるからだ。介護や育児などで離職してしまった人でも、場所を問わないテレワークなら働ける場合があるだろう。何らかの事情で「働きたくても働けない」という人材を、テレワークという選択肢があれば、拾い上げることができるかもしれない。

DXを強く推進している愛媛県においても、22年3月に改訂された「愛媛県デジタル総合戦略」で、「テレワークによる雇用創出」を掲げている。市町村と連携しながら、場所に左右されない新たな形態の雇用創出を図ることを戦術として掲げている。

また、新型コロナウイルスの流行を機に、社会の脆弱(ぜいじゃく)性があらわになった今、将来発生しうる災害や新たな感染症などにも屈しないレジリエンスを高めることが不可欠だ。この観点からも、テレワークの環境地盤を整えておくことは、都市部/地方問わず、自治体や企業として重要だろう。

テレワークといっても「これまで役所や会社で行っていたことをそのまま家で行う」という発想では、生産性が下がってしまうので注意が必要だ。労働力不足が深刻な今、大切なのは、一人当たりの生産性の向上、つまり”最小の労力・時間・金額で、最大の成果を出すこと”である。そのための具体的な業務仕分けの流れが以下である。

業務の最適化フロー
  1. 業務の洗い出し
  2. 業務の仕分け
    • ・「コア業務」と「ノンコア業務」(必ずしも自分じゃなくてもよい業務)に分ける
      ・「コア業務」をオンラインまたはオフラインに分ける
  3. ノンコア業務を「なくす」「減らす」「誰かに頼む」に分ける
  4. 「誰かに頼む」の依頼先を検討

テレワークを導入しながら生産性を高めていくためには、上記の仕分けが重要である。テレワークでは、オフィスで顔を見ながら仕事をするのとは違い、ちょっとした相談や依頼ができない。そのため、まずは自分やメンバーの業務を明文化し、把握することが重要である。

雇用の機会を逃さないために

地方の人手不足や人材流出を食い止めるには、自治体や企業のDXの推進が喫緊の課題ともいえる。直接顔を合わせないオンラインでの業務依頼やリモートワークに抵抗がある人も少なくないだろう。そんなときも、ビデオチャットツールなどを活用することで、ギャップは最小限にすることができる。慣れてくるとリモートワークの便利さ・快適さに気付いてくるだろう。

育児に介護、その他さまざまなバックグラウンドを持つ人々が、働く場所や働き方を選べること、それが雇用の機会を増やすためにも重要なのではないだろうか。DX化が自治体や企業だけでなく、社会全体をより豊かにしていく。