ドコモAI社長が記者会見を行う日は本当に訪れるのだろうか――。NTTドコモが開発した前田義晃社長を模したAIアバター「アバター前田社長」は、すでに社内でキャリア相談に活用されている。見た目は本人そっくりで、公開映像を確認する限りでは違和感はほとんどないように見える。この取り組みの背景や仕組みについて考えてみた。
声はどれほどリアルなのか
AIによって再現された前田社長の声は非常にリアルで、過去に本人の動画を知る人々からも「よく似ている」との印象が多い。実際に利用した社員からは「まるで社長と直接話しているようだ」と感じる声もあり、単なる音声合成を超えた存在感を示している。
リアルな声を支える「クロスリンガル音声合成」技術
声の再現性を支えているのは、NTTが開発した「クロスリンガル音声合成」技術である。この仕組みでは、わずか15秒ほどの決算説明動画を学習データとして使うだけで、声の個性や声色を保ちながら高精度の音声を生成できる。短い素材からでも本人らしい声を再現できる点が大きな強みだ。
社員に広がるキャリア支援の効果
アバター前田社長は単なるAIアバターではなく、キャリア形成を支援する仕組みとして設計されている。利用者のアンケートからは「キャリアの考えを言語化できた」「短時間で自己整理が進んだ」「キャリアシートに具体的に書ける内容が増えた」といった好意的な意見が多い。質問に答えられない場合でも「思い浮かびません」と伝えたり、逆にアドバイスを求めたりできる柔軟な設計が、本音を引き出す効果につながっている。
会見利用には依然としてハードルがある
一方で、記者会見や決算発表といった場面での活用には課題が残る。誤った発言や意図しない回答が許されない場では、AIアバターに任せきることは難しいと考えられている。ただし、展示会や社内イベントなど限定的なシーンであれば導入実績もあり、用途を選べば十分に有効活用できる。特に人材育成や自己分析の分野では、導入しやすい環境が整っているといえる。
楽天グループの「三木谷AI」活用事例
同じく経営トップをAIアバター化した例として注目されるのが、楽天グループの「三木谷AI」（AI三木谷）だ。2025年度第1四半期の決算説明会では、三木谷浩史会長のAIアバターが実際に登場し、決算説明を担当した。経営トップのAIアバターが外部に向けて公式の発表を担うのは、国内でも先進的な事例である。
もっとも、AIが述べた発言をそのまま本人の言葉として扱ってよいのかという課題は残る。しかし楽天は「三木谷AI」の発言内容を事前に確認しており、三木谷氏本人の発言として扱うことに問題はないと説明している。このように、技術面だけでなく信頼性確保の姿勢を明示している点が特徴的だ。
両社のAIアバター活用に対するスタンスの違いは次の通りだ。
- NTTドコモ（アバター前田社長）： 社内のキャリア相談や人材育成を主な利用シーンとし、公的な会見での活用には慎重な姿勢を取っている。
- 楽天グループ（三木谷AI）： 決算説明会で実際に発表を担わせるなど、社外に向けた利用にも踏み込み、信頼性確保のために内容を事前確認する体制を整えている。
今後の展開に注目
アバター前田社長の取り組みは、AIが人材育成やキャリア支援に入り込む象徴的な事例となった。一方で、楽天の三木谷AIは、経営の表舞台にAIを活用する新しいスタイルを提示している。両社のスタンスの違いは明確だが、今後こうしたAIアバターがどのように社会に浸透し、活用事例が増えていくのかが注目される。
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